浅田真央がキム・ヨナに金メダルを取られた敗因
2010年3月4日
日本のマスコミは、浅田真央が金メダル確実とずっと報道していた。それだけに、浅田が金メダルを逃してからの取材合戦は、未だに続いている。確かに、4年に一度のオリンピックで、金メダルを逃したことは残念だ。だが、浅田にとってこの敗北は、大きな山を乗り越えるために意味のある負けであったように思う。
まず理解して頂きたいことは、私も浅田真央を応援していたし、彼女に金メダルを取って欲しいと思っていた。だが、正直、今回のオリンピックでは無理かなとも思っていた。何故なら、オリンピック前から、キム・ヨナと浅田の間には、既に大きな差が出ていたように私の目には見えていたからだ。
浅田真央は勝気だ。嫌みではない勝気さだ。勝負事に勝気さは必要だ。だか、あの勝気さが、彼女の敗因であると思っていた。持って生まれた性格もあるのであろう。また、前回のオリンピック直前より、メディアでも騒がれ続けてきたことにも影響されているのかもしれない。勿論、キム・ヨナも、常人よりはずっと勝気であると思う。そうでなければ、あの熾烈な二人の勝負に勝てるわけがない。
私が思うに、同じような環境にあり、ライバル関係にある二人の勝敗が決まった要因は、一つだけだと思う。それは、テクニックではない。多分、テクニック的には互角であろう。唯一、勝敗を決した要因は、「勝気さ」にあるように私は思った。そのことは、浅田のここ数日の発言にもよく表れている。今回の負けで、少しは学んだかなと思ったのだが、未だ分かっていない部分もあるのかもしれない。
私が、極真カラテの創始者大山倍達の傍につかせて頂いていた時、大山総裁はよく私に向かって、「若(私のことを若と呼んでいた)、継続は力なりだよ。そして、強い者はチャンピオンにはなれないよ。弱いからこそ、強くなれるんだよ。チャンピオンにもなれるんだよ。何故かわかるか? 強いものは、勝つことばかりを考える。だけどね、弱い者は、負けないように頑張るんだよ。だから強くなれるんだよ。チャンピオンにもなれるんだよ」と仰っていた。あの大山総裁の言葉が、浅田真央を見ていて蘇ってきた。
彼女は強い。良い意味でも強気である。だが、それが過ぎると負けにつながるのだ。勝つことばかりに気を取られ、負けないようすることが見えなくなるのだ。今回のオリンピックの結果は、正にそんな浅田の姿勢に要因があるように思う。
浅田とは対照的にキム・ヨナは、終始負けないように謙虚に頑張っていた。既に追われる立場になっていたにもかかわらず、まるで浅田とキム・ヨナは逆で、キム・ヨナの方に追うような謙虚さが見て取れた。このことが、唯一勝敗を決した原因であったのではないかと思う。
確かに、浅田のトリプルは凄い。女性スケーターが誰も成し得なかったことかもしれない。だが、演技全般に渡って見ると、キム・ヨナのスケーティングは美しかった。動きも滑らかで自然であった。4年前の荒川静香の金メダルの演技を彷彿とさせた。あの時荒川の演技を見て思った。「何と、フィギアースケートらしいフィギアースケートなのだろう。本当に美しい。フィギアースケートは、スポーツでありながら芸術だと」多分、キム・ヨナは、荒川静香を掘り下げて研究したのではないだろうか。そして、負けないように、オリンピックの加点制をも研究しつくし、技で勝負するよりも、美しさで勝負したように思う。その結果が、金メダルになったのだと思う。難しい技を試みて不安定になるよりも、自分の身体にしみついた技をより一層体得させ、自然にわき出るような動きにすることで、観客や審判員を唸らせるような美しさを醸し出すことに努力したのだと思う。
しかし、勝負であることも事実だ。だとすれば、浅田はまだまだ分かっていない。帰国後の会見で、あんなに挑戦的に、「キム・ヨナの記録を塗り替える」だの、「4年後に金を取る」だのと公言すれば、当然ライバルであるキム・ヨナ陣営の耳にも届く。オリンピック後、引退という噂も囁かれている状況下、わざわざ寝てる子の目を覚まさせるような必要はない。浅田にとっても、金メダルのチャンスは、オリンピックでは次回のオリンピックだけであるはずだ。もっと慎重に、そして、謙虚に、勝つことばかりを考えるのではなく、負けないようにスケートと向き合って欲しい。
それから、今回の選曲には、色々ないきさつがあったようだから仕方ない。だが、キム・ヨナが天使のイメージで臨んできたのに対し、浅田の選曲とイメージは、対極の悪魔のイメージで重く暗かった。やはり、金メダルを狙うのであれば、天使のイメージでいかなければ難しいように思う。そもそも、浅田の性格やノリは、悪魔のイメージよりも天使のイメージがピッタリくるのであるから。浅田が天使のイメージで勝負を賭けていれば、或いはライバルのキム・ヨナは、対極で今回のような選曲ではなく逆に悪魔のイメージ、重い曲と演技を選んでいたかもしれない。いずれにしても、今回の勝負では、最初からキム・ヨナに軍配が上がっていたような気がする。実際、キム・ヨナの演技は素晴らしく、美しかった。
最後に付け加えておく。キム・ヨナ側が、審判員を買収していたというような噂までもが流れているようだ。確かに、前サマランチIOC会長の時代は、韓国の金雲龍氏が副会長を長年務め、商業ベースのオリンピックを定着させたのは金氏の功績とさえいわれている。確かに、IOCに於いて、絶大なパワーを持っている。私も、テコンドウの雑誌を出していた関係で、何度もお目に掛かったこともあり、当時は韓国への取材旅行をいつも面倒みてくれていたので、金氏の力は知っている。故朴大統領時代の秘書室長(日本の官房長官のような地位)で、朴大統領が暗殺された時も、直ぐ横にいた人物だ。サマランチが巨額の富を築いたのも、金雲龍氏の力だと言われている。真央とヨナの試合の審判員に、日本人を入れず韓国人を入れるぐらいのことは彼にとっては容易い。そのことが事実だとしても、あのキム・ヨナの演技は、悔しいが真央を上回っていたように思う。荒川静香のスケーティングを思い出させるような、フィギアースケートらしい美しさがあった。ここは謙虚に負けを認め、4年後に向かって頑張るべきであるように思う。