小泉首相にとっての郵政民営化の意味
国民にとっての郵政民営化の意味
2005年8月28日
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郵政民営化の是非が長きに渡って問われているが、どれだけの国民が郵政民営化の本当の意味を理解しているであろうか。非常に大きな疑問を感じざるを得ない。本来、政策論争で正々堂々と与野党が闘わなければならないにもかかわらず、最大野党である民主党をはじめとする野党各党が、郵政民営化の意味を研究し、国民に説明した上で議論を闘わせず、ワイドショー的政治手法で、足の引っ張り論争しかしなかった罪は非常に大きい。国民は、言葉尻を捕まえて揚げ足をとるような議論は聞きたくない。しかし、野党各党の多くの議員、特に民主党議員と反小泉自民党脱落議員の多くが、揚げ足取り的議論ばかりを繰り返す姿には、もう辟易とした。政策の本質を議論して欲しいものだ。
まず、小泉首相が何故ここまで郵政民営化に固執するのか、そのことを理解しなければならない。実は、自民党員である小泉首相が郵政民営化を唱えるということは、自ら自らの肉を切り、血を流すことに等しいのである。そのことを、どれだけの国民が知っているであろうか。都市部では案外知られていないが、全国にある特定郵便局というのは、若き日の故田中角栄元首相が、自民党の集票組織として全国に張り巡らせたものなのだ。ある意味、現代的に言えばフランチャイズ方式の郵便局なのである。特定郵便局自体は民間企業と変わりない。局員の給料も各々の特定郵便局の売上から支払われている。局長が経営フランチャイザーであり社長として経営しているようなシステムなのである。しかし、不思議なのは、立場や各種優遇措置は、民間ではなく公務員と同じなのだ。そして、ここで一番注目しなければならない事実は、特定郵便局長は、特定郵便局の局長であると同時に、その地区の自民党支部長的な役割も兼務していることである。即ち選挙の際の集票地区組織代表になっているということだ。
だからと言って特定郵便局を否定するものではない。言い方は悪いが、国から給料を頂いている100%公務員が働く郵政公社直営の郵便局に比べれば、特定郵便局のほとんどが地域に根差し、地域の人々との絆を持っている。実際に地域の利用者も、特定郵便局には親しみを持っていて、隣組的なノリで繋がっている場合が非常に多い。それだけに、選挙の際には自民党の集票活動に大きな役割を果たしてきた。日本新党による細川政権に与党の座を許し野党に甘んじた自民党が、再び与党に返り咲いた際の一番の功労組織も、特定郵便局で構成される集票組織であった。
にもかかわらず、首相就任以前から、一貫して郵政民営化を唱える小泉首相は、どのような複雑な思いでいるのか、容易に想像がつく。このような、自民党に恩のある組織を切り捨てようとしているのだ。それは、それなりの覚悟と信念がないはずがない。大体、野党の議員達は、盛んに小泉首相の郵政民営化を避難するが、小泉首相は、今回の選挙のためや、アメリカからの外圧によって郵政民営化を言っているのではない。小泉首相は、首相に就任するよりも随分昔から郵政民営化を一人で声だかに叫んでいた。郵政民営化に関しての本も、出版しているほどにずっと以前から郵政民営化は日本の構造改革に必要不可欠と叫び続けてきた人なのである。
小泉首相が首相に就任する直前に、新宿の厚生年金会館大ホールで行われた、「首相公選制の会」に参加した時のことであった。中曽根元首相と小泉首相がゲストとして、講演をされた。その時は、まさか小泉氏が首相になるとは思ってもいなかった。しかし、その数日後、突然小泉さんの名前が首相候補に浮上し、瞬く間に首相に就任してしまった。今でも、その「首相公選の会」で小泉さんが語られた言葉が、この人はなかなか面白い政治家かもしれないな、という印象で私の耳に残っている。「私は、自民党をぶっ壊します。そうしなければ、首相公選制も実現しない。それには、まず郵政を民営化しなければならないのです」と熱い言葉で語っていた。しかし、その時の小泉さんの言葉から理解すると、自民党が憎くてぶっ壊すのではなく、自民党のことも、日本の国のことも愛しているからこそ、一度は自民党をぶっ壊すのだ。ぶっ壊して再生しなければ、日本にも、自民党にも、明るい未来はない、というようなことを言っていた。この時の小泉首相の言葉は、非常に説得力があり、今までの既存の政治家からは一度も聞いたことのない、非常に奇抜な政治論であった。
自民党内の反小泉派の政治家達は、義理人情を切り捨てるような小泉の政治手法は許せん、と言っている。しかし、どんなことでも、一歩先に進む時、進歩する時には、過去の柵に捕われず進まなければ成長できない。例えば、サッカーの中田選手や野球のイチローや松井を見て頂きたい。彼らは、自己の成長、より高い目標を達成するために、敢えて過去の柵や恩のある球団やリーグや恩師を切り捨て、より高いレベルの球団やリーグに移籍していくことによって、自らを大きく成長させている。そして、自らの成長が、日本のサッカーや野球を世界でも一目おかせる存在に押し上げ、サッカーと野球の発展に大きく貢献している。小泉首相が現在推し進めている、郵政民営化をはじめとする構造改革は、中田やイチローや松井がやっていることと同じようなことなのである。確かに、義理人情は等閑にすることになってしまうが、日本の国にとって良い結果を出すことでご恩返しをする、そういう西洋的な発想の元の改革なのである。よって、目先で、今目の前のことだけを見て判断するのではなく、マクロな目で、将来的に長い目で見守るということと、選挙で棄権せずに投票するということが、我々国民に課せられた大きな役目なのである。
小泉首相は、自分の私利私欲や我欲や意地で、郵政民営化を叫んでいるのではない。身を切るような思いをしながらも、自民党の再生、そして日本という国の構造改革を成し遂げようとしているのである。その足掛かり、最初の一歩が郵政民営化なのである。
郵政省というのは、もともと郵便事業だけしか視野にない時代に創設された省である。創設当時、まさか郵便以外に放送やらインターネットやら通信事業だなどと、莫大な金銭が動き利権が渦巻くような業種を管理する省に発展するとは、誰も予想していなかった。ところが、時代は変わり、郵便や郵便貯金にとどまることなく、時代の最先端となった放送もインターネットも通信も全て郵政省管轄の事業になった。数ある省庁の中で、これだけ大きな発展を遂げ、莫大な金銭を扱うことになり、無数の利権が渦巻くようになった省庁はないであろう。昔は、郵政省というと、数ある省庁の中でも、公務員希望者から一番人気のない省庁であった。しかし、今では、一番人気の省庁に変貌を遂げた。そのような郵政省に、誰もが馬鹿にしていた時代に、自民党の集票組織を根付かせた故田中角栄元首相という政治家の、「先見の明」には驚かされる。
特定郵便局という集票組織は、自民党にとってはこの上のない組織である。しかし、日本の将来のことを考えれば、小泉首相が考えるように、郵政省は民営化し、色々な意味で公平な状況にもっていくことが最善なのではないか。企業や組織の力が選挙の集票活動に影響を及ぼすようなことがあっては、国民の意見が選挙で公平に反影されないことは誰の目にも明らかである。そのような不公平なシステムになっているのであれば、そのような関係を精算し民営化することが、郵政事業にとっても、日本の国にとっても、そして、自民党にとっても良いことであるはずだ。
それでは、国民にとっての郵政民営化の意味とは何であろうか。もちろん、上記したような事柄も、国民にとって大きな意味がある。しかし、それだけではない。郵便事業ということだけをとってみても、民営化した方が良いことは一目瞭然である。ただ、全ての面で、民営化が良いという訳ではないのかもしれない。例えば、郵便貯金に関しては、今までは公社であったので、国民が安心してお金を預けておくことができた。しかし、民営化されれば、預けられたお金は株主が自由に運用することも可能になる。ということは、例えば、外資系の企業が株主になってしまえば、日本の国民が汗水流して貯金したお金が、海外に流れてしまうという可能性だってあり得るということだ。
しかし、郵便貯金以外の部分で言えば、民営化をした方が国民にとってもプラスになる部分が多いように思う。実際問題、ドイツ、イギリス、イタリアを始め、多くの諸外国では、1980年代より民営化や自由化が為され、それなりの好結果を得ている。郵政族の荒井議員などは、アメリカだって公社のままだと盛んに言われているが、確かにアメリカは公社のままである。が、しかし、早い段階から自由化され、アメリカ国民は選択肢を得ている。その結果は、一目瞭然で、アメリカで生活したことのある人ならばわかるが、明らかに郵便よりも民間の宅配便の方が優位にたっている。皆様もよく耳にされるフェデックス(FedEx)やUPSは、民間宅配業者である。
カナダにしても、確かに公社のままではあるが、自由化され国民にとっての選択肢が増えた。しかし、カナダの場合は、アメリカに競べると郵便の信頼度もまだまだある。ただ、スーパーマーケットでも切手を買うことができるようになったり、今まで点在していた郵便局の数が減り、その分セブンイレブンのようなコンビニエンス・ストアーの店鋪内に郵便ブースができたりと、色々な無駄が削減されつつ便利さが増幅されるような方策がとられ、非常に良い結果がでている。
他にも、ドイツやオランダのように郵政省は民営化され、世界でも指折りの大企業として成功を収めている。どこの国の場合でも、郵政事業が民営化や自由化されても、ユニバーサル・サービスができなくなったとか、解決できない各種問題が生じたという話はない。それどころか、無駄が省かれ、それまで赤字経営で多額の税金が投入されていたが、自由化、民営化後は、そのような赤字が解消され、大きな利益を上げている例ばかりである。
上記したように、特定郵便局は地域に根差し、比較的良いサービスを国民に提供しているような気がする。何故ならば、特定郵便局は公共機関の立場でありながら、その経営形態は民営に等しく、商売として成り立っているが故に、お客様へ対してのサービスが徹底されているからである。ところが、郵政省直営である本局に行ってみると、その様子はかなり特定郵便局とは違う。本局に行って、かなり歯痒い思いをしたり、嫌な思いをしたり、という経験を持つ国民は多いはずだ。
例えば、窓口で長い行列ができていて、横には別の局員がいるにもかかわらず、自分の担当ではないということで見て見ぬふりをされたり、取って付けたような返答しか返ってこなかったりとか、非常に面倒臭い様子で対応されたりとか、長時間待たされたりとか、盥回しにされたりとか、大切な郵便物が破損したにもかかわらず責任転嫁されたり、と各種トラブルや嫌な思いを経験された読者も多いと思う。その度ごとに、本当に郵便局の本局で働いている人々は、働く気があるのだろうか、と大きな疑問を感じるのは私だけではないはずだ。
野党の議員達は、郵政民営化に関し、国民の立場にたったような口ぶりでユニバーサル・サービスがどうのこうのとか、リストラがどうのこうのとか、「民」と言っているが自民党が言う「民」とは民間大企業だけだとか、色々言っている。が、しかし、一つとして説得力のある意見がない。それは何故かと言うと、彼ら彼女らが、実際に日々郵便局に通って、郵便貯金を自らの手で為したり、郵便を出したり、ということをされていないからに他ならない。されていたとしても、一般の国民とは違い、顔の知れている政治家の先生であれば、悪い対応をしてくるわけがない。それと、特定郵便局に関しては、確かに公社の傘下であり、立場は公務員であるが、実際には民営と変わらない状況で現在も運営されている訳である。よって、母体は変わってもその利便性は存続するに違いない。大体、現状でも、特定郵便局員が、公務員である必要がどこにあるのかが理解できない。
どうも、非常に身近にある特定郵便局が、自分達の今後の身の振り方を考え戦々恐々としているが故に、そこから発せられる声が聞こえてくるので、何か郵政民営化とは非常に悪いことのように聞こえてきてしまう。が、しかし、実際には、特定郵便局に絡む小さな利権構造や郵政省自体が絡む大きな利権構造を、郵政民営化によって一掃することは、国民にとって無駄なことではない。
問題は、いくら安価で確実に郵便が届くシステムができていても、その為に莫大な赤字が出て、その赤字の穴埋めに莫大な税金が使われていることである。それならば、民営化し、自由競争の中で、価格もサービスも競い合い、赤字の出ない形で最善のサービスを提供できるような方法を模索するべきである。それには、郵政事業の自由化と民営化しかない。そのことは、日本以外の諸外国もまったく同じ問題を抱え解決したという前例があるので、一つも躊躇う必要がある改革ではないのだ。それよりも、一日でも早く実行すべき法案なのである。読者の皆様も、郵便局でのご自分の経験を思い起こし、ご一考あれ!