アメリカの光と陰
2008年7月5日
9.11同時多発テロ以来、アメリカでは色々なことが起こった。ブッシュ大統領は、本当に任期中色々な局面に対応しなければならぬ、最近の大統領としては最も大変な思いをした大統領の一人かもしれない。
だが、結論からいえば、アメリカは負けた。何に負けたかというと、ビンラディンに負け、アルカイダに負け、テロリスト達に負け、反米を唱える人々や国々に負け、アメリカ人自身に負けた。
ある意味、アメリカの帝国主義的拡大主義に、終焉の時が近づいたということなのかもしれない。日本の政治がこれだけ混迷を極め、未来への希望も何もなくなり混沌としているが、日本だけでなくアメリカも、日本以上に混迷の時を迎えていることを、我々日本人も、今回の大統領予備選を通し知ることができた。前回のブッシュ大統領二期目の大統領選挙も混迷を極めたが、今回の民主党による大統領予備選は、それ以上の醜態を世界に曝け出した。あんなアメリカの姿を見せ付けられれば、同盟関係を結ぶ国々やその国民も不安になる。それ以前に、アメリカのカリスマ性自体が過去のものになってしまう。
アメリカ人は、「契約」と「取引」と「陰謀」が大好きな国民だ。この三つの要素が、アメリカ人の特徴といっても過言ではない。まるで、ハリウッド映画のような陰謀を、映画さながらで繰り広げる。我々日本人からしたら、創造もつかないし、まさかそんなことは有り得ないと思ってしまうような、諜報活動なども現実に行われている。本当に映画さながらである。ある意味、非常に知的であり、またその反面、物凄く幼稚というか、子供がそのまま大人になり、知恵と知識だけは秀でているような印象さえ受ける。いや、実際にそうである。アメリカ人が考えだす陰謀は、正にマンガや映画の中だけのことのようなことを、まるで子供がゲームでもするかのように、現実社会で為してしまう。そこにアメリカの怖さも弱さもある。
嘗て、アメリカは、パナマ共和国のノリエガ将軍をキューバのカストロやニカラグアなど中米の革命グループ攪乱のために協力させた。ノリエガ将軍も、アメリカのお陰で国家元首にまで昇り詰められた。だが、一旦、アメリカに都合が悪くなるとアメリカは、パナマ侵攻を強行し、嘗ての友であるノリエガ将軍を、コロンビアの麻薬組織との癒着とアメリカへの麻薬輸出の罪で逮捕し、フロリダの刑務所に収監してしまった。ある意味、この方程式は、アメリカの得意技である。利用しておいて、都合が悪くなると悪党に仕立て上げ、暗殺するか刑務所に入れてしまう。何故このようなことが起こるかというと、CIAなど関係省庁の陰謀に関わった関係者が、勢力争い等で追い込まれた際、国益のために為しはしたが、CIAによる諜報活動自体が非合法活動なので、その責任を回避するために、このような理不尽なことが頻繁に起こってしまうのだ。だから、そういう暴露本が出版されたり、情報が流されたりして、映画が製作され注目され話題になったりするのだ。
ノリエガ将軍とまったく同じような方程式で、死刑に追い込まれたのがイラクのフセイン大統領である。フセイン大統領も、嘗ては親米の人であった。というか、ニクソン大統領時代、大統領補佐官であったラムズフェルドが、親米傀儡政権をイラクに樹立するための陰謀によって、大統領の座についたのがフセイン大統領であった。当時、長きに渡りイラン・イラク戦争が繰り返され、イランと対峙していたアメリカは、イラクを親米国家に作り上げる必要があった。そうやって誕生したのが、フセイン大統領であった。その証拠に、イラク軍の軍事兵器は、戦闘機も含めアメリカ製のものばかりであった。よって、湾岸戦争の時も、今回のイラク戦争の時も、フセイン大統領率いるイラク軍は苦戦を強いられた。何故なら、イラク軍が所有する軍用品のほとんどがアメリカ製だが、アメリカは修理部品や交換部品を、対イラク情勢が変わってからは一切イラクに輸出しなかった。よって、イラク軍の軍需品のほとんどが使い物にならなかったのだ。イラク空軍の主力戦闘機は、嘗てトムキャットやファントムだった。だが、主要部品が供給されなくなり、まったく無用の長物になってしまった。
フセイン大統領は、今回のイラク戦争で何故アメリカに追い詰められたか? 答えは簡単だ。大量破壊兵器保有が大義名分にされていたが、あれはただのアメリカ側の苦肉の策でハッタリだ。本当の理由は、フセイン大統領が、石油の基軸通貨をドルからユーロに変更するといって、アメリカを脅かしたからだ。実際に、一時ドルからユーロへ変更した。その際、サウジアラビアなど周辺産油国の一部も、フセイン大統領のドルからユーロへの動きに同調した。しかし、そのことが、アメリカという虎の尾を踏んでしまった。
この時、アメリカは水面下で即座に動きをだした。直接イラクにではなく、フセインに右へ倣ったイラクの周辺産油国へ圧力を掛けた。サウジアラビアをはじめとするこれらの産油国は、ドルからユーロへ変更する際、フランスの銀行を利用した。その条件として、預金をドル扱い銀行からフランスのユーロ扱い銀行へ移行することであった。既に、送金が済んでいたこれら産油国の部族長や元首一族は色めきだった。何故なら、アメリカの動きを察知したフランス側は、フランスの銀行へユーロ預金された彼らの預金を凍結してしまったからだ。何故なら、フランスをはじめとするEU諸国にとっては、基軸通貨をドルからユーロに変更するということは念願のことであった。しかし、強硬なアメリカに対し、サウジアラビアをはじめとする産油国は逆らうことができなかった。フランスで凍結されたユーロ預金に後ろ髪を引かれながら、泣く泣く基軸通貨をユーロからアメリカ・ドルに戻した。だが、この時、フセイン大統領は、このアメリカの圧力に屈しなかった。このことが、アメリカによるイラク戦争開戦の一番大きな理由であることは、知る人ぞしる真実だ。
ブッシュは、テキサス出身で、ファミリー・ビジネス自体が石油である。よって、石油ビジネスに関しては、非常に精通しておりシビアなのだ。絶対に等閑にしておけない問題であった。よって、ブッシュ・パパが大統領時代に行われた湾岸戦争の時より、ブッシュ家とフセイン家は犬猿の仲、因縁の仲であったのだ。
この時、石油の基軸通貨をドルからユーロへ移行することはブッシュの思惑通り阻止できた。だが、そのツケは非常に大きかった。そして、ここにきて、西側諸国に於ける原油価格の高騰は、確かにファンド・マネー等による影響も大きいであろうが、上記したような事情を熟知しているビンラディンによる、経済テロによるところも大きい。
このようにして見てみると、結局のところ、アメリカは、ビンラディアンをはじめとする、反米勢力やテロリスト達との戦いに敗れたといっても過言ではない。現在、アメリカの同盟国である西側諸国は、原油高を発端にして食糧危機等で窮地に追い込まれている。ビンラディンは、非常に聡明なテロリストなので、あまり自分の手柄をアピールしないが、彼の水面下での作戦に、アメリカが負けたということだ。西側諸国を経済的混乱に陥れ、石油を使って掌の上で転がしているだけではない。彼は、これらの混乱に乗じて株価やファンドを上手に操り、多額の活動資金をも手にした。そして、その金で、チベットや北朝鮮など世界有数のウラン埋蔵国より、水面下でウランを手に入れ、持ち運び可能な小型の核兵器を手にしようとさえしているらしい。よって、アメリカは、チベット問題や北朝鮮の問題に、非常に大きな関心とセンシティブな動きをしているのだ。
だが、このビンラディンにしても、先に上げたノリエガ将軍やフセイン大統領同様、元は、アメリカが育てたともいえなくもない。アフガニスタンが対ソ連紛争の最中にあるころ、CIAが主導でアメリカはアフガニスタンの軍隊を隠密裏に訓練した。その際、アフガニスタン軍下にビンラディンはおり、アメリカによる訓練を受け、テロリストとしてのイロハを身につけた。皮肉なことだ。
南米のチャベス大統領にしても、まったく同じような方程式で、今はアメリカと敵対している。チャベス大統領は、CIAとアメリカ軍が水面下で関与したクーデターにより、暗殺のため拉致されヘリコプターで近隣の島まで運びだされた。ところが、危機一髪のところで、民衆による暴動が起こり、その暴動を収拾することができなかった革命反政府軍とアメリカ側は、仕方なく暴動沈静化のためチャベス大統領を解放した。この時、暴動が後数時間遅かったら、チャベス大統領は暗殺されていたであろうと言われている。以来、チャベス大統領は、知っての通り南米一の反米活動家になった。
最後に、理解しておかなければならないことがある。それは、今地球上で起こっているテロをはじめとする、アメリカやその同盟国に対峙する反米勢力との確執が何故起こったかということだ。マスコミでは、安易にイスラム教徒とキリスト教徒による宗教戦争的な扱い方をしている場合が多い。確かに、一見、イスラム原理主義を標榜するテロリスト達との対テロ戦争のように感じられる。確かに、そういう側面もある。だが、もっと根深いものがあることを理解しなければならない。それは、遠い過去から続いている怨念のような感情だ。
ユーラシア大陸における人々の歴史を注意深く見てみると、ユーラシア大陸の人々が宗教よりも部族単位による強い絆で結ばれていることに気付く。このことを西欧人が無視したことが、現在、地球上で起こっているあらゆる紛争や確執の種である。
まず、アフリカと中東の地図を見てもらえば、そのことは一目瞭然である。アフリカの国々の国境線も、中東諸国の国々の国境線も、直線の国境線が多いことに気付かされる。何故なら、これは大英帝国時代のイギリス人によって、石油の埋蔵場所確保という思惑で、勝手に引かれた国境線であるからだ。ここに問題の原点がある。石油の思惑で国境線が引かれたが、その直線的な国境線は、部族単位で社会が形成されている人々の部族社会を、容赦なく寸断してしまった。ある意味、朝鮮半島の37度線のような国境線が、アフリカや中東のいたるところに発生してしまったようなものだ。「アラビアのロレンス」という映画を観て頂ければ、そのことがよく理解できる。異部族同士が共存するというのは難しい文化が、彼らの長い歴史の中で培われている。にもかかわらず、西欧人の勝手な私利私欲と思惑により、部族は寸断され異部族との共存を強要されてしまった。だから、中東諸国は不安定な内政が続く国々が多いのだ。今でも、部族が非常に重要であることは、ドバイがあるアラブ首長国連邦という国をみてもらえば一目瞭然である。この国は、今でも7部族により形成されており、この7部族の長、即ち首長達によって連邦国として成立しているのだ。他のアラブ諸国も、この形をとっていれば、こんなにも世界中を恐怖に落とし入れるようなテロが溢れる世界情勢にならなくてもすんだのかもしれない。
その上、第二次世界大戦後イギリスは、ウェスト・バンクにユダヤ人によるイスラエルという国まで建国してしまった。問題は、より複雑化した。これらの怨念が、中東の人々の中には脈々と受け継がれてしまっている。そして、彼らは、聖戦の名の下に、イスラム教という宗教を大義名分にして、テロ行為を繰り返している。よって、一見宗教戦争のように見えてしまう。だが、本質の部分では、上記したような理由なのだ。
今、反米で結集されアメリカに対峙しているテロリストや国々との闘いは、上記したような根本の原因を解決しない限り、半永久的に継続される気がしてならない。されど、それでは今から国を組み替えられるかというと、それも実際には難しく非現実的である。このような状況を見れば、陰謀で世界を混乱に導いたイギリスやアメリカは、地球上にはびこってしまった反米勢力であるテロリストやテロ支援国家との闘いに、負けてしまったといっても過言ではない。そして、アメリカはじめ同盟国は、「光の時代」から「陰の時代」に移行しつつあるのかもしれない。その証拠に、アメリカをはじめとする先進国である同盟諸国よりも、発展途上国といわれた反米諸国の方が、現在は経済的成長率が格段に高く、将来性も有望視されてきている。いよいよ、アメリカも、同盟国日本も、暗黒の時代を迎えようとしているのかもしれない。悲しいことだが、そんな気がしてならない。