松坂大輔獲得交渉に見え隠れするアメリカ側の思惑
2006年12月15日
松坂大輔のアメリカ・大リーグ入りが遂に決定した。交渉権を60億円で西武から得ていたボストンのレッド・ソックスが、タフ・ナゴシエイター(手強い交渉人)である松坂の代理人スコット・ボラス氏を納得させることに成功した。6年間で61億円というギャランティーでの契約だと公表されている。しかし、その契約の中身は明らかにされていない。年棒17億円を提示していたボラス氏の提示額からすると、大分譲歩したことになる。一方、年棒8億円を提示していたレッド・ソックス側からすれば、契約金高だけをみれば勝利といえる。だが、実情はそうとばかりは言えないようだ。
一部の報道によると、期限ギリギリになり、タイムスケジュール的に危機的な状況になりつつあったレッド・ソックス側が、松坂本人との交渉を望み、それをボラス氏が許した。松坂との直接交渉において、松坂の入団の意思が強く、これ以上交渉を難航させることが決してプラスではないので、ボラス氏に妥協するよう促した。その結果、事態が急変し入団が決定したということになっている。だが、その裏には、もっと複雑な事情があった、という情報がアメリカ側から聞こえてきた。
松坂本人のレッド・ライン(最終判断ライン)が、契約金の金高でなかったことは間違いない。だが、彼が何としてもレッド・ソックスに入団したいからボラス氏を説き伏せたという行(くだり)には、少々疑問が残るということだ。何故なら、松坂にとってのレッド・ラインは、今まで報道されていなかったが、実は契約書に記載されている一行に関してであったという未確認情報が入ってきた。それは、「レッド・ソックスに在籍期間中には、国際試合に日本代表選手として参加しない」という一行であったという。松坂は、契約金の金高ではなく、この条件をどうしてものめなかったのだという。その松坂の意向を受け、最後の最後まで、ボラス氏は頑張っていたというのだ。ボラス氏にしたら、その一行をのんででも、契約金の金高を吊り上げた方が、間違いなくメリットがあったはずだ。だが、松坂はその条件はどうしてものめかったということだ。
レッド・ソックス側も、当初より、この条件を松坂がのめば、ボラス氏の提示額をのむと言っていたらしい。だが、松坂はこのレッド・ラインを死守したいということで頑張ったらしい。このことは、日本男児として、松坂を評価するに値する。その結果、ボラス氏はどちらかというと、最終的に、多少面子が潰れる格好になった。しかし、彼はアメリカ人でありながら、雇い主である松坂に忠実に交渉を進め、最後まで松坂の意志を尊重したらしい。そんな松坂の意思を最後まで尊重した、ボラス氏も評価するに値する。
もともと、何故こんなにも大きなお金が、いくら天才球児であるとはいえ、松坂獲得に動くのかが不思議であった。しかし、この話を聞くと、全てが納得できる。アメリカは、やはり第一回ワールド・ベースボール・ゲームで、王監督率いる日本代表チームに、お家芸である野球で負けたことによって、プライドを傷付けられていたのだ。だからこそ、次回の大会では、どんなことをしても日本に勝ち、優勝しなければという意思が、アメリカ国民全体から湧き上がっていたのだ。それを察した、政治家、財界人、各界の名士達は、色々なことを画策した。その結果、まずは天才右腕投手を、レッド・ソックスに抱え込み抑え込んでしまえ、ということになったのだ。その証拠に、ホワイト・ハウスの報道官が、昨日の記者会見中、松坂入団のニュースを聞くやいなや「エプスタインはよくやった」と言いながら、記者達に向かって親指を突き立てて見せた。エプスタインとは、レッド・ソックスのGMであるセオ・エプスタインのことだ。そして、アメリカ人が親指を突き立てるという仕草は、「やったぜ、これで万事ОKだ」という意味だ。しかも、エプスタインと呼び捨てにするところをみると、かなり親しいことが窺える。同じ頃、六カ国協議に関しての記者会見をしていたヒル国務次官も、同じように松坂の入団に関し、喜びを露に表現していた。彼はボストン出身ということもあるが、両氏が公的な場であっても、一外国人選手である松坂の大リーグ入りを気に掛けていたということは、彼らが、松坂がレッド・ソックス入団ということで、松坂を国際試合で封印できたと思っていたからに他ならない。しかし、契約内容に関しては、明かされていない。よって、事実を確かめることはできない。国際試合になってみなければ、松坂側が勝ったのか、レッド・ソックス側すなわちアメリカ側が勝ったのかは分からない。ただ、金高からすると、松坂は最後まで、上記したような条件を死守できたように思える。その反面、検査をした病院で契約書にサインがなされたということを聞くと、その条項を削除したり、書き直したりする暇もなかったように思える。どちらにしても、これからの成り行きが、興味深いものになったことは間違いない。
最後にもう一つ。実は、レッド・ソックスのオーナーは、ダンキン・ドーナツというユダヤ系の名門企業である。ボストン出身のユダヤ系アメリカ人ウイリアム(ビル)・ローゼンバーグが創設し、全世界に店舗展開する世界最大のドーナツ・ファースト・フード店だ。オーナーは、ホワイト・ハウスにも人脈があり、なかなか影響力のある実業家だ。実は、1998年まで日本では西武と業務提携していた会社なのだ。だが、業績不振から、日本の市場からは撤退した。しかし、撤退後も、西部とダンキン・ドーナの間では、親交を温めていたと聞き及んでいる。ヤンキースに松坂を取られないように、レッド・ソックスが名乗りを上げたなどと日本のメディアは報道していた。だが、実情は、違うようだ。やはり、全ての事柄には、表と裏があるものだ。