ラムズフェルド国防長官更迭の意味
2006年11月10日
中間選挙が終わり、前々からその更迭問題が燻っていたラムズフェルド国防長官が遂に更迭された。これは、ブッシュ大統領にとっては、色々な意味で非常に勇気ある決断であった。
案外知られていないが、ラムズフェルド氏は、ブッシュ政権下、影の大統領とさえ言われるほどの力と人脈を持っていた。その影響力は、絶大であった。彼は、国防総省と軍部をほぼ完全に掌握していた。ラムズフェルド氏の言うことは聞いても、ブッシュ大統領の命令は聞かないという軍幹部も沢山いる。
チェイニー副大統領も、実はラムズフェルドの部下だった男だ。パパ・ブッシュの時代から、クリントン政権下は除き、ずっとラムズフェルドがアメリカの軍部を掌握し、軍関係の動きはラムズフェルドの思惑で動かされていたと言っても、決して過言ではない。記憶に新しいところでは、穏健派で、湾岸戦争の総司令官を務めたパウエル前国務長官の更迭劇がある。良識人で軍を愛するパウエル氏が更迭された背景には、軍部、国防総省、そして、ブッシュ政権下、ラムズフェルド氏が影で暗躍して、彼の思惑でパウエル氏が更迭されたことは衆知の事実である。
そもそも、ラムズフェルド氏とイラクとは因縁浅からぬ関係であった。これも案外日本では知られていないが、嘗て、アメリカの傀儡政権として、イラクにフセイン大統領を誕生させたのもラムズフェルド氏であった。そのフセインが、アメリカの呪縛から逃れようとしたらば、フセイン政権を壊滅させ、死刑にまで追い込んだのもラムズフェルド氏である。勿論、彼が手を下したわけではないが、彼がその道筋を描いたことは歴史上の事実だ。
ベネゼエラにクーデターを起こし、隠密裏にチャべス大統領暗殺を企て、もう一歩のところで失敗したのも、その隠密作戦を陰で操っていたのはラムズフェルドであると言われている。
現場出身ではないにもかかわらず(将軍ではなかったという意味)、何故ここまで軍を掌握することができたのか不思議な感じもする。それは、彼が軍需産業へ対して強いということが影響しているのであろう。フォード政権下、国防長官だったラムズフェルド氏は、ソ連の軍拡政策に対抗し、政府内での軍の発言力を高め、国防費を増加させた。そして、秘密兵器の開発等の中心人物でもあった。この時に、軍や軍需産業と緊密な関係を築き上げたと言われている。
現状、イラクで、多くのアメリカ人兵士が命を落とすことになっているのも、イラク戦争当初のラムズフェルドによる作戦判断ミスと言っても過言ではない。作戦判断ミスというよりも、兵士の命よりも軍や軍需産業を擁護するような判断をしたということなのかもしれない。ラムズフェル氏の提案している作戦では、多くの兵士の命が脅かされると察知したパウエル氏は、自分のキャリアを掛けて阻止しようとした。しかし、ラムズフェルド氏には勝てなかった。そして、今の悲惨なイラクの状況があることは、アメリカ人なら誰でも知っていることだ。いや、ラムズフェルド氏からすれば、作戦判断ミスとは捉えていないであろう。何せ、合理主義者のラムズフェルド氏と人道主義者のパウエル氏では、その価値観や判断基準が180度違うのだから。
ラムズフェルド氏は、ニクソン大統領時代に下院議員を辞任し大統領補佐官に就任した。その大統領補佐官就任を皮切りに、フォード政権下、レーガン政権下、パパ・ブッシュ政権下と、ずっと国防長官を務め、政権の中心に君臨してきた。現ブッシュ政権下では、裏の大統領とさえ呼ばれていた。パパ・ブッシュ時代からの重鎮ラムズフェルド氏へ対して、ブッシュ大統領は、面と向かって強いことを言えなかったとも言われている。また、ラムズフェルド氏も、若い頃より知っているブッシュ大統領のことを、ある意味子供扱いにしているという話も聞こえてくる。
もしかすると、ある意味、今回の中間選挙で共和党が敗北したことは、ブッシュ大統領にとっては、ラムズフェルド氏を堂々と更迭することができたということで、非常に喜ばしいことであったのかもしれない。勿論、そんなことは口外できないことであるが。ブッシュ大統領の胸中での思いということであろう。少なくとも、悲惨な状況が続くイラクの問題を方向転換できることだけは間違いない。