ウイグル族の暴動とハッキング
2009年7月11日
中国西部の新疆ウイグル自治区ウルムチで5日午後、住民らが通行人を襲い道路を遮断し、車に火を付けるなどする暴動が起きた。約3000人のウイグル族がデモに参加し、警官隊と衝突した。世界中の多くのメディアは、今年10月に建国60周年を控え、中国政府が少数民族に対する締め付けを強めていることが不満の背景にあるのではないかと報じている。だが、実際のところは、もっと根が深いようだ。
以前にも中国の少数民族問題に関し記事で書いたが、北京オリンピック後に、大きな暴動がウイグル族から起こるのではないかということが一部関係者の間で言われていた。ウイグル族は、中国に存在する少数民族最大で、約840万人の人口であるといわれている。このウイグル族から北京オリンピック直後暴動が起き、チベット族、朝鮮族をはじめとする他の少数民族へと波及し、その流れは貧富の差で苦しむ貧困層が慢性的に抱く政府への不満に火をつけ、中国共産党にとって危機的な暴動へと発展するのではないか、と多くの海外諜報機関は希望的に推測していた。実際、多くの海外諜報機関が、扇動諜報活動を中国国内に潜伏する草の者的な地元諜報員を使って繰り広げている。6月下旬、広東省韶関市の玩具工場で、同自治区から出稼ぎに来ていたウイグル族の労働者が漢民族に襲われ2人が死亡、漢民族を含む118人が負傷する事件も、そのような諜報機関が暴動を誘発させるために利用したのではないかとも言われている。思惑通り、ウイグル族はこの事件に反発し暴動を起こした。中国政府が、一番恐れていたシナリオが現実のものとなってしまった。
一時は、北京オリンピック直前に、想定外で偶発的に起こってしまったチベット族による暴動で、ガス抜きがされてしまい、当初予想されていた、いや予定されていたウイグル族から始まる暴動は現実化しないのではないかとさえ思われていた。だが、現実は、そんなに甘くはなかった。
問題は、この少数民族による暴動が起爆剤となり、今まで封印されてきた貧富の差、格差社会の現実に苦しむ貧困層に、根強く息づいている中国政府へ対しての不満が、一気に爆発し、全国レベルでの大暴動に発展する可能性である。アメリカをはじめとする資本主義国は、そうなることを望んでいる。何故なら、中国の市場が宝の山であることを知っているからだ。そして、貧富の差に喘ぐ中国民の貧困層も、北京オリンピック以来、自由の風を肌で感じ、資本主義の甘い味を知ってしまった以上、もう後戻りはできないところまで、気持が高揚している。中国政府が一番恐れていたことだ。
私達が想像している以上に、中国政府は今回の暴動を危機的に受け止めている。そのことは、新疆ウイグル自治区ウルムチ地域に派遣された治安維持部隊の大きさを見れば一目瞭然だ。また、胡錦濤国家主席がラクイラ・サミットを突然欠席したことは、中国政府が今回の暴動に大きな危機感を持っていることを端的に表している。その証拠に、中国政府は、非常に迅速に報道統制を水面下で実施した。
そんな矢先、ケリー米国務省報道官は8日の記者会見で、同省のウェブサイトが今月5日からハッキング(不正アクセス)による攻撃を受けていることを明らかにした。そして、このハッキングは、アメリカだけでなく、韓国、日本、ドイツと多くの政府機関やメディア、ジャーナリストへも行われている。実は、私も5日の夜中、正確には6日未明、ハッキング攻撃を受けた。しかし、その時は、まさかハッキングだとは気付かなかった。仕事をしていたら、突然ネットに繋がらなくなり、セキュリティー・パスが消滅し、Internet Explorerが、まるで生を受けたようにウィンドーを増殖しだし止まらなくなった。話が横道に逸れたが、この件に関し、韓国メディアを中心に、日本のメディアも、北朝鮮によるハッキング攻撃と報じた。ところが、アメリカの関係機関は、そのような韓国と日本のメディア報道に、慎重な姿勢を示した。未だ明確な発表をアメリカ政府はしていないが、内部から聞こえてきた情報によると、どうもここにきてアメリカの関係機関は、今回のハッキングは、北朝鮮によるものとカモフラージュした、あるいは北朝鮮と手を合わせての、中国政府主導によるものではないかという結論に至ろうとしているようだというのだ。その理由として、今回のハッキングの規模が過去最大であること。また、その手法が非常に専門的であり巧妙であることを挙げている。確かに、ハッキングが起こった時期と、暴動の時期も合致している。また、その規模からして、かなり組織的に行わないとできないことは誰の目にも明らかである。そして、技術的にもかなり高度な腕を持った複数のハッカーによることが想像できる。だとすると、北朝鮮が単独で、ここまで大規模なサイバーテロを展開することは不可能ではないか、という結論のようだ。だが、中国であれば、問題なくできる。中国政府が、水面下で恒常的にサイバー戦略を展開していることは、関係機関ではよく知られている事実である。
今の北朝鮮の言動をみていると、北朝鮮の可能性も否めない。だが、単独でここまでできる能力があるか否かという点には、大きな疑問符が付く。だが、中国なら、充分にそれだけの能力がある。いずれにしても、中国政府が、今回の暴動をどれだけ脅威に感じているかということがわかる。多くの中国国民が、抑圧された生活の中で、辛苦に耐えていることを想像すると、今回のウイグル族による暴動が、中国変革の大きな起爆剤になってくれればと祈りたくなる。